注意しておかなければならないこと

(1)事故発生時

・事故に際には必ず警察に届け出てください。加害者にとっては、道路交通法上の義務ですが、被害者にとっては、事故の発生を証明する交通事故証明書の発行を受けるためにも届出が必要です。

・交通事故の際には、相手方の氏名、連絡先、車両ナンバーを確認しましょう。また、加害者が仕事中に事故を起こした場合には、勤務先に対しても損害賠償を求めることができますので(使用者責任、民法715条)、勤務先についても確認しておきましょう。

・怪我がないように思えても、必ず医師の診断を受けてください。後日症状が現れた場合、事故が原因であることの証明が困難となることがあります。

・交通事故の裁判では、警察の現場検証(実況見分)の調書が重要な証拠となります。しかし、現場検証の調書が不正確に作成されることがありますので、現場検証の際には、自分の記憶通りの記載をしてもらうように求めてください。調書の完成後の内容訂正は困難です。なお、物損事故では現場検証が行われないことがあります。

・記憶は時間が経過するにつれて曖昧になります。できるだけ早い時期に事故の状況を記録しておくことをお勧めします。事故現場の写真や負傷個所の写真を撮影したり、相手方の説明をメモしておくとよいでしょう。目撃者がいる場合には、氏名、連絡先を聞いておくことをお勧めします。

(2)交通事故の保険について

・交通事故の加害者が加入している保険には、強制保険(自賠責保険)と任意保険があります。

 自賠責保険は、法律(自動車損害賠償保障法、略称「自賠法」)で加入が強制されている保険ですが、人身事故にしか適用されず、保険金額も上限があります(傷害120万円、死亡3,000万円、後遺障害4,000万円)。自賠責保険の保険金は加害者が被害者に賠償した後に保険会社に請求することが原則ですが、被害者が保険会社に損害賠償額を直接請求することも認められています(自賠法16条)。

 任意保険は自賠責保険でカバーされない損害に備えて任意に加入する保険です。任意保険の内容は様々ですが、対人賠償は無制限であることがほとんどで、対物賠償もカバーしていることが大半です。任意保険では保険会社による示談代行がなされるのが一般的であり、被害者は保険会社と示談交渉し、保険会社は自賠責保険でカバーされる分もあわせて賠償金を支払います(その後、保険会社は、自賠責保険分を自賠責保険会社に請求します。)。

・自賠責保険は任意保険のように過失相殺の制度はありません(ただし、「重過失減額」という制度があるため、被害者の過失が7割以上の場合、自賠責保険会社からの賠償額は通常より減額されます。)。

・保険に加入していない車による事故や加害者が分からないひき逃げの場合等で自賠責保険が使えない場合でも、被害者は、政府保障事業(自賠法71条)によって自賠責保険と同様の保護を受けることができますので、あきらめないでください。

(3)怪我の治療中

・交通事故の怪我でも健康保険が使えます。病院から自由診療を勧められることがあります。しかし、被害者に過失がある場合、健康保険を使わないと被害者が負担する治療費が大きくなります。また、自由診療は健康保険を使った場合よりも高額となるため、被害者が医療費を立て替える場合の負担が大きくなり、加害者が自賠責保険にしか加入していない場合に治療費が補償上限額を超えてしまう可能性が高くなります。

・治療費等については、示談成立前でも自賠責保険から仮渡金の支払いを受けることができます。また、任意保険では、保険会社が医療機関に医療費を立替え払いします。

・医療費や通院のための交通費の領収書、事故時の給与明細などは、後日の証拠となりますので、全て保管してください。相手方や保険会社、警察に書類を提出する場合には、必ずコピーをとり、保管してください。

・医師から診断書をもらうときは、自覚している症状との相違がないかを確認してください。

(4)示談交渉、裁判

・これ以上治療を続けても治癒しない状態になることを「症状固定」といいます。この段階で事故による損害が確定し、加害者・保険会社(任意保険加入の場合)に対して示談交渉を行います。治癒しない症状は後遺障害となりますので、医師から後遺障害診断書をもらいます。後遺障害診断書は、損害(仕事ができないことによる逸失利益や慰謝料)を決定する重要な資料となりますので、医師には症状を十分説明して作成してもらいましょう。

・示談交渉では、損害の内容、過失相殺、後遺障害の重大性などの事情を元に示談金額を協議します。被害者が賠償請求できる損害には、治療費以外に、仕事ができなかったことによる休業損害、後遺障害による逸失利益、慰謝料、車両損害等が含まれます。加害者や保険会社の提示額が納得できない場合は訴訟提起を検討することになります。損害額、過失相殺割合、後遺障害の重大性は、最終的には裁判所が判断します。保険会社の認定が不服な場合でも、あきらめないでください。

・加害者や保険会社に対する請求権は、一定の期間が経過すると時効消滅します。例えば、傷害を受けた被害者の自賠責保険に対する請求権は事故日の翌日から3年(2010年4月1日以降発生の事故の場合。同日前に発生した事故の場合は2年)で時効消滅します。怪我の治療や示談交渉が長引く場合は、お早めにご相談ください。




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