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                                  平成21年4月  
                                 弁護士 出 澤 秀 二
                                 弁護士 丸 野  登紀子  

 リーマン・ショック後の金融危機の中、上場企業の倒産が相次いでいますが、今年に入ってから、会社更生手続きの申立てを行う企業が増加しています。その理由は、「DIP型会社更生手続き」の運用が開始されたからだと言われています。この新しい会社更生手続きがこれまでの会社更生手続きとどのように異なるのかご説明します。

1 DIP型更生手続きとは 

 DIP (Debtor In Possession)型というのは、取締役が経営権を維持したまま事業の再建を図る手続きのことをいいます。民事再生手続きの場合は、ほとんどの事案がDIP型で行われていますが、会社更生手続きにおいても、取締役が自ら管財人となって事業を再建するというのが、DIP型会社更生手続きです。

2 従来の会社更生手続き 

 会社更生手続きは、担保権の実行を停止して、再生手続きの中に組み込むことができる強力な手続きであり、事業の再建を行うためには有効な手段です。しかし、民事再生手続きの申立て件数に比して、会社更生手続きの申立ては非常に少ない件数でした。
 従来の会社更生手続きでは、申立て後直ちに保全管理人(ほとんどが弁護士)が選任され、会社を管理するようになり、取締役は事業の経営や財産の管理を行えなくなります。また、手続きの開始が決定されると、取締役以外の者から管財人が選任され、管財人が事業の経営と財産の管理を行っていました。会社更生法上では、「裁判所は、第百条第一項に規定する役員等責任査定決定を受けるおそれがあると認められる者は、管財人に選任することができない。」と定めているだけであり、必ずしも取締役を管財人とすることが禁止されているものではありませんが、運用として管財人には取締役以外の者を選任していたのです。
 しかし、経営が悪化している企業の取締役としては、経営権が剥奪される会社更生手続きを選択することはなかなかできるものではありません。また、それまで全くその会社の経営に携わっていない弁護士が再建を図るのですから、再生計画を策定するのに時間がかかります。しかし、再生までに時間がかかれば事業価値は劣化してしまいます。
 このような理由から、会社更生手続きは敬遠されてきたものと考えられています。DIP型会社更生手続きは、取締役を管財人とすることで、従来の会社更生手続きのデメリットを最小化しようとするものであり、東京地方裁判所民事第8部(商事部)の裁判官により提言されたものです。今年に入り、株式会社クリード(不動産ファンド運用会社)が第1号としてDIP型会社更生手続きを申し立て、その後も、日本綜合地所株式会社、Spansion Japan 株式会社、あおみ建設株式会社が申し立てています。

3 DIP型会社更生手続きの要件

 DIP型会社更生手続きの運用が認められ、取締役が管財人として、事業の再建にあたるためには、以下の要件を満たしていることが必要とされています。

 ①現経営陣に不正行為等の違法な経営責任がないこと

 ②主要債権者が現経営陣の経営関与に反対していないこと

 ③スポンサーとなるべき者がいる場合はその了解があること

 ④現経営陣の経営関与によって会社更生手続きの適正な遂行が損なわれるような事情が認められないこと

4 DIP型会社更生手続きの流れ

 DIP型会社更生手続きの場合、申立てと同時に、弁済禁止等の保全処分が発令されるとともに、監督委員兼調査委員が選任されます。監督委員兼調査委員は、現経営陣による事業の経営や財産の管理について監督し、会社更生手続き開始の当否や上記DIP型会社更生手続きの要件の存否を調査します。
 監督委員兼調査委員の調査の結果、会社更生手続き開始が相当であり、上記DIP型会社更生手続きの要件を満たしている場合には、現経営陣の中から管財人が選任され、それとともに、開始決定前の監督委員兼調査委員が調査委員に選任されます。調査委員は、管財人が裁判所に対して提出する報告書等の当否を調査することにより、管財人の管財業務の監督をしていくことになります。かかる業務の結果、再生計画が認可されれば、管財人は再生計画を遂行していくことになりますが、調査委員は計画の履行状況等を調査します。
 現経営陣が管財人になることにより、再生計画案の提出や認可決定までの期間は短くすることができますし、現経営陣の事業経営や財産管理を監督委員や調査委員が監督することにより、公正な手続きが図られることになります。
 なお、東京地方裁判所民事第8部(商事部)は、DIP型会社更生手続きを申し立てるにあたっては、遅くとも1週間前までには事前相談を行うことを希望しています。


5 おわりに

 以上のとおり、DIP型会社更生手続きは、従来の会社更生手続きをより利用しやすくしたものですが、現経営陣が経営に関与するため、債権者にとって不安が生じる手続きともいえます。しかしながら、監督委員や調査委員等が現経営陣の行為を適切に監督していることにより、債権者の不安は解消していくことができますし、早期の再建が果たせれば、債権者の損失も最小化することができますので、DIP型会社更生手続きの導入は、債権者の利益になる制度と考えられます。

以上






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