■1 送られてきた調査票に回答、返送する(前年12月まで)。*任意(裁判員規則15条1項)
もっとも、回答、返送しないと辞退事由があっても考慮されないおそれがあります。
■2 裁判の6週間前までに送られてきた質問票に回答する。*義務(裁判員法30条2項)
質問票は、裁判所の指定により返送または持参しなければならないとされているため、回答が義務付けられているといえます。なお、回答しなかったとしても罰則はありません。
*ただし、質問票に虚偽の記載をした場合には30万円以下の過料(行政処分としての制裁であり、刑事罰ではありません)に処せられる場合があり、さらに質問票に虚偽の記載をし、これを裁判所に提出したときは50万円以下の罰金(刑事罰です)に処せられる場合があります(裁判員法111条、110条)。
■3 選任手続期日(裁判当日の午前中が予定されています。裁判所HP参照)に裁判所に出頭する。 *義務(裁判員法29条1項)
正当な理由なく出頭しない場合には、10万円以下の罰金に処せられる場合があります(裁判員法112条1号)。
■4 選任手続期日において
(1)本人確認をされ、その後担当書記官等の裁判所職員から、これから行われる裁判員手続きについての説明を受けます。
(2)当日用の質問票に回答する。
当日用質問票では、事件の関係者でないかどうかなどについて聞かれることになります。
(3)裁判員質問手続室(小部屋)で裁判長から質問を受ける。
裁判長は、主に、辞退が認められるか微妙なケースについて、候補者に事情を確認する質問や、候補者が公平な裁判をできるかどうかを確かめる質問などをすることになります。質問手続室には、裁判官3人と書記官のほか、検察官と弁護人(裁判所が必要と認める場合に限り被告人も)が立ち会うことになっています(裁判員法32条)。
(4)最終的にはくじで選ばれて、その場で裁判員となることが告げられることになります。
■1 宣誓をする(裁判員法39条2項)
■2 公判に立ち会う(裁判員法52条)
公判では、主に証人や被告人に対する質問が行われます。裁判員から、証人等に質問することもできます。このほか、証拠として提出された物や書類も取り調べます(証拠調べ)。
■3 評議、評決を行う(裁判員法66条2項、67条)
被告人が有罪か無罪か、有罪だとしたらどんな刑を科すべきかを、裁判官と一緒に議論(評議)、決定(評決)します。評議・評決の基礎とできるのは、法廷に顕れた証拠によって認定できる事実と経験則のみです。ですから、テレビのニュースや新聞といったマスコミで報道された情報を基に判断することはできません。議論をつくしても、全員の意見が一致しない場合、評決は、多数決により行われることになります。 なお、評議において、裁判員は意見を述べなければなりません。
■4 判決宣告に立ち会う(裁判員法63条1項)
■5 なお、拘束期間については、裁判員の負担を考えて、現在、約7割の事件が3日以内に終結するように計画されており、長くても1週間前後でほとんどの事件が終結すると考えられています。また、1日にどのくらいの時間、裁判を行うかは、事件ごとに異なりますが、裁判所の通常の開廷時間が午前10時から午後5時までですから、一日あたりの拘束時間は長くてもその範囲と考えられます。
■1 裁判員等(裁判員、補充裁判員、選任予定裁判員または裁判員候補者もしくは予定者)に選ばれたことについての公表の禁止
たとえ裁判員等本人であっても、名前や住所その他個人を特定するに足りる情報を公にすることは禁止されています(裁判員法101条1項前段)。ここでいう「公に」とは、裁判員等になったことを不特定多数の人が知ることができるような状態にすることをいうとされています(裁判所HP参照)から、家族や親しい友人、上司など限られた人に話すことは禁止されていないといえます。なお、裁判員の任務を終了した後であれば、名前等を公にすることができます(裁判員法101条1項後段)。もっとも、この場合でも、本人の同意がない限り名前や住所等が公にされることはありません。
■2 質問票、選任手続における虚偽記載、虚偽発言の禁止
質問票に虚偽の内容を書いたり、裁判員等選任手続における質問に対して嘘を言ったりすることは禁止されており(裁判員法30条3項、34条3項)、これに違反した場合には、30万円以下の過料(行政処分としての制裁)に処せられることがあります(裁判員法111条)。また、場合によっては、 50万円以下の罰金に処せられることもあります(裁判員法110条)。
■3 裁判員候補者の出頭義務
裁判員等には出頭義務があるため(裁判員法29条1項、52条、63条1項)、裁判所からの呼び出しに応じなければなりません。正当な理由なく裁判所に行かない場合には、10万円以下の過料に処せられることがあります(裁判員法112条)。なお、辞退事由については、第7以下で扱っています。
■4 審理や評議、判決等の宣告期日に出席し、評議で意見を述べる
審理や評議、判決等の宣告期日に出席し、評議では意見を述べなければならないとされています(裁判員法52条、66条2項、63条1項)。
■5 法令の解釈に係る判断及び訴訟手続きに関する判断に従う
裁判員は、裁判長が、構成裁判官の合議による法令の解釈に係る判断及び訴訟手続きに関する判断を示した場合には、それに従わなければなりません(裁判員法66条4項)。もっとも、事実認定や量刑判断においては、このような規定はありませんので、裁判員は自由に判断することができます。
■6 守秘義務
評議の秘密や裁判員の職務上知り得た秘密を漏らしてはならず(裁判員法70条1項)、これに反するときは、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる場合があります(裁判員法108条1項)。また、守秘義務は裁判員としての任務が終わった後にも生じますから(裁判員法108条2項)、たとえ自己の担当した裁判が終わっても、評議の秘密や裁判員の職務上知り得た秘密については、自由に話すことはできません。
ここで問題となるのは評議の秘密とは何なのかということですが、法廷で見聞きしたことや、裁判員裁判についての一般的な感想については、評議の秘密にはあたりません。これに対して、評議におけるやり取りについては、たとえ感想であったとしても評議の秘密にあたる可能性がありますので注意が必要です。
■7 公平誠実義務
裁判員は、法令に従い公平誠実にその職務を行わなければならないとされています(裁判員法9条1項)。
■8 裁判の公正さに対する信頼を損なうおそれのある行為の禁止(裁判員法9条3項)
■9 品位を害する行為の禁止(裁判員法9条4項)
■10宣誓義務(裁判員法39条2項)
■11賄賂の収受の禁止(刑法197条以下)
裁判員は、非常勤の裁判所職員(国家公務員)になるとされていますので(法務省HP参照)、一時的とはいえ「公務員」に該当するため、裁判員の職務に関して賄賂を受け取った場合、賄賂罪が成立します。賄賂罪にはいくつかの類型がありますが、もっとも重い場合には1年以上20年以下の懲役に処せられる可能性があります(刑法197条の3第1項、第2項)。
■1 解雇その他不利益取扱いの禁止(裁判員法100条)
裁判員の職務のため休暇を取得したこと、その他裁判員等であること又はあったことを理由として解雇その他不利益取扱いをすることは禁止されています。
■2 個人情報の開示禁止(裁判員法101条1項)
裁判員等の名前や住所等を公にすることは禁止されています。また、本人の同意がない限り、裁判員の任務を終了した後であっても名前や住所等を公にすることは禁止されます。
■3 判決前の接触禁止
判決の宣告前は、報道機関に限らず、誰であろうと、事件に関して裁判員等に接触してはならないとされています(裁判員法102条1項)から、裁判員である間にマスコミが取材をすることはできません。また、判決の宣告の前後を問わず、誰であろうと裁判員等が職務上知り得た秘密を知る目的で、裁判員等に接触してはならないとされています(裁判員法102条2項)。
■4 裁判員等の威迫の禁止
手段を問わず、裁判員等に威迫の行為をした者は、2年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられます(裁判員法107条1項)。
■5 危害を加えられる恐れのある事件からの裁判員の除外
事件関係者から危害を加えられるおそれのある例外的な事件については、裁判官のみで審理することになっています。
■1 旅費について
裁判員や裁判員候補者等になって裁判所に来られた方には、旅費(交通費)が支払われます。旅費(日当、宿泊料も同様)の額は、最高裁判所規則で定められた方法で計算されるため(裁判員規則6条~9条)、必ずしも実際にかかった交通費が支払われるわけではありません。
また、前日に自宅を出発しなければ開廷時間に間に合わない場合や、裁判の終了後、当日中の帰宅が困難となるような場合など宿泊が必要となる場合には、宿泊料が支払われます。宿泊料の額についても、実際にかかった宿泊料金ではなく、裁判所の地域によって、1泊当たり7800円又は8700円が支払われます(裁判員規則8条)。
■2 日当について
裁判員や裁判員候補者等になって裁判所に行くと、日当が支払われます。日当の具体的な額は、選任手続や審理・評議などの時間に応じて、裁判員候補者・選任予定裁判員については1日当たり8000円以内、裁判員・補充裁判員については1日当たり1万円以内で、決められます(裁判員規則7条)。
たとえば、裁判員候補者の方については、選任手続が午前中だけで終わり、裁判員に選任されなかった場合は、最高額の半額程度が支払われると考えられています(裁判所HP参照)。また、日当は、裁判員等の職務に対する報酬ではなく、裁判員候補者等として裁判所に出向くことや裁判員等の職務を行うに当たって生じる損害の一部を補償するものであり、裁判員の職務の対価ではありません。そのため、会社の有給休暇を使用して日当と給料を受け取ったとしても、会社の給料と二重取りの関係にはならないとされています。
■1 選ばれる確率
毎年、裁判員裁判の対象となる事件数は異なりますし、有権者数の正確な値を出すことも困難ですから、裁判員に選ばれる確率を正確に出すことはできませんが、平成19年の統計では、全国で審理された刑事裁判のうち、裁判員裁判の対象となる事件は2643件でしたが、例年3000件前後で推移しています。有権者数はおよそ1億385万人で、1回の裁判員裁判には通常6人の裁判員及び2人の補充裁判員が参加するので、単純に計算すれば、1年間に4327人に1人が裁判員となることになります。
また、裁判員裁判では1件につき50人から100人の裁判員候補者が呼ばれることになっていること、有権者の中には就職禁止事由を有している者もいることから、裁判所に呼ばれる確率はもっと高いものとなるといえます。また、地域ごとにも偏りがあり、読売新聞(H20/8/26)によれば、千葉では220人に一人が候補者になるとの試算も出ています。
■2 辞退できる場合
裁判員制度は、特定の職業や地位の人に偏らず、広く国民に参加を求める制度であるため、原則として辞退することは認められていません。例外的に、法律や政令で次のような辞退事由が定められており、裁判所がそのような事情にあたると判断すれば辞退することができます。
(1)法定辞退事由(裁判員法15条)
①70歳以上の人
②地方公共団体の議会の議員(ただし会期中に限る。)
③学生、生徒 (通信制を除く)
④5年以内に裁判員や検察審査員などの職務に従事した人、3年以内に選任予定裁判員に選ばれた人及
び1年以内に裁判員候補者として裁判員選任手続の期日に出頭した人
⑤一定のやむを得ない理由があって、裁判員の職務を行うことや裁判所に行くことが困難な人
ⅰ重い病気又はケガ
ⅱ親族等の介護
ⅲ事業上の重要な用務を自分で処理しないと著しい損害が生じるおそれがある。
(裁判員として職務に従事する期間、事業所の規模、担当職務について代替性があるかどうか、
予定される業務の日時変更の可能性があるかどうか、裁判員として参加することによる事業への
影響が直接的であるかという5つの要素を考慮して判断)
ⅳ父母の葬式への出席など社会生活上の重要な用務がある。
(2)その他の辞退事由(平成20年政令3号)
ⅰ妊娠中又は出産の日から8週間を経過していない。
ⅱ介護又は養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある親族(同居の親族を除く。)
又は親族以外の同居人で自らが継続的に介護又は養育を行っているものの介護又は養育を行う必要
がある。
ⅲ重い病気又はケガの治療を受ける親族・同居人の通院・入退院に付き添う必要がある。
ⅳ妻・子の出産に立ち会い、又はこれに伴う入退院に付き添う必要がある。
ⅴ住所・居所が裁判所の管轄区域外の遠隔地にあり、裁判所に行くことが困難である。